2024-08-30
6月4日、立法院(国会、台湾は一院制)は患者の権利と利益の保護をさらに保障し、また台湾バイオメディカル産業の発展を助長するために、10年近く争議の的になっていた「再生医療法(再生醫療法)」と「再生医療製剤条例(再生醫療製劑條例)」を第3読会で可決しました。
安侯法律事務所の蘇嘉瑞・上級弁護士は、この一連の再生医療特別法は「ゲームのルール」を列挙し、執行範囲と細胞製剤の標準規格をより明確にしています。これにより医療機関やバイオテクノロジー企業はルールを遵守しつつ発展することができますし、所管官庁も根拠に基づいた管理監督が可能になります、と指摘しました。
再生医療とは何でしょうか。簡単に言えば、細胞の再生能力を利用して損傷した組織や器官を修復する医療技術のことです。
例えば、がん患者の体内から特定の免疫細胞を抽出・分離、培養増殖させた後、細胞製剤を患者の体内に注入してがん細胞を攻撃させます。新法では「標準的な治療が効かない」患者や「末期固形がん」の患者に限らず、すべてのがん患者が衛生福利省(厚生労働省に相当)が承認した再生医療を受けることができます。
再生医療二法では、医療機関のみが再生医療技術を行使できること、市場が無秩序にならないように再生医療用細胞製剤はすべてGMP(薬品優良製造規範)を遵守し医薬品許可証を取得しなければならないことも明確に規定されています。
過去10年、がん患者は次々と騙され、1回数十万台湾ドルから百万台湾ドルという高額で正体不明の細胞治療を受けてきました。また、虚偽の治療効果を宣伝する業者も多数いて、アンチエイジング、若返り、睡眠障害を改善する細胞療法を強く勧めますが、実際には臨床試験は行われておらず、所管官庁からの営業許可も得ていません。
今回の「再生医療法」では罰則が明確に定められており、当局が承認していない治療を許可なく行ったり、無許可で再生医療の広告を掲載した場合、最高で2,000万台湾ドルの罰金が科されます。
項目 | 内容 |
---|---|
1.法源 | 再生医療法と再生医療製剤条例が「特定医療技術及び医療機器検査の実施又は使用の管理に関する法律(特定醫療技術檢查檢驗醫療儀器施行或使用管理辦法)」に代わります。 |
2.実施管理 | 医療機関以外は実施できません。実施は特定のがんの種類やステージに限定されませんが、衛生福利省の承認と地方の所管当局への登録が必要です。 |
3.製剤管理 | 再生医療製剤は医薬品です。医薬品メーカーが製造あるいは輸入する場合、衛生福利省に検査・登録を申請する必要があります。承認されると医薬品許可証が発行されます。 |
4.拡大治験 | 衛生福利省は「再生医療審議会」を設置、患者に緊急の医療ニーズがある場合は審議会が条件付き許可を出せば未認可の製剤を使用することができます。衛生福利省の許可を得れば、拡大治験を実施しないことも可能ですし、人体実験を完成させること、すなわち再生技術を使うこともできます。 |
5.虚偽広告 | 募集組織や細胞提供者募集の広告、そして再生医療の広告はすべて衛生福利省に登録する必要があります。医療効果を誇張してはならず、罰則も明確に定められています。 |
6.救済措置 | 医療機関は、賠償責任保険に加入するなど、副作用に対する救済措置について計画をたてなければなりません。 |
高雄医学大学再生医療・細胞治療研究センターの呉登強・最高経営責任者(CEO)は、これまでバイオテクノロジー企業は、高度なバイオテクノロジーが所管官庁によって拒否され、投資が無駄になることを懸念していた、と指摘しています。しかし、現在では、規定に従って順調に医薬品許可証を取得すれば、将来は輸出できるようになります。
一旦、業界企業が細胞製剤を大規模に供給できるようになれば、再生医療は「富裕層専用」というレッテルを貼られることはなくなる、と期待されます。今年再生医療二法を審議した黄秀芳・立法委員(国会議員)は、法規が健全になれば、再生医療が普及し応用される機会が生まれ、ひいては治療費用を低減させる、と述べています。
Precedence Research社の産業調査レポートによると、世界の再生医療市場は現在、急速に拡大しています。2022 年の市場規模は242億米ドルに達しました。2032年には1,747億米ドルにのぼると予想されており、年平均成長率は約22.8%です。呉登強CEOは「台湾の再生医学はまったく新しい時代に入ろうとしている」と非常に大胆な予言をしました。
では、なぜ、これら重要法案の審議・成立に8年もかかったのでしょうか。
黄秀芳立法委員は、前回の国会で「差し当たっての治療効果があれば、人体治験は免除される」という条文が争議を引き起こした、と話しました。100名に達する専門家や学者が陳情書に署名、過度の緩和は患者の権利利益を損なう、と主張したため、政党間の交渉は決裂し、第3読会を通過しませんでした。
しかし、今回は衛生福利省が各界の意見を容れ、争議がある条文を多数修正、「珍しく政府与党と野党が共通認識を持った」と、黄秀芳立法委員が語るほどでした。今回は、政党間の協議は必要なく、法案は委員会へ送付され、立法院の第3読会で可決されました。
台湾の法規は日本より10年遅れていますが、それにもかかわらず、呉登強CEOは、台湾と他の国々は同じ出発点に立っており、負けてはいない、との認識を示しています。というのは、各国とも再生医学の技術はまだ研究開発の段階にあり、治療効果を観察しているところで、がん治療においては、現在のところ、せいぜい補助的に使われているに過ぎないからです。
呉登強CEOは、ウサギとカメの競争を例に挙げ、「私たちは非常に慎重に、また正しい方向に歩いています。誰もが、品質があってこそ長く走ることができる、と信じています」と語りました。
黄秀芳立法委員もまた、台湾の「再生医療法」は衛生福利省が再生医療審議会を設置することを規定しており、再生医療の治験や臨床試験に対するチェックは日本よりも厳しいです、と指摘しました。
しかし、注意に値するのは、再生医療は費用が非常に高いことです。自己免疫細胞を利用してがん治療を行う場合、各治療法とも100万台湾ドル(1台湾ドル=4.5円として450万円)以上です。このように治療は高額ですが、効果については、現在までそれを裏付けることができる確かな科学的根拠はありません。
今年5月、衛生福利省は、がん患者が自己免疫細胞治療を受けた後の生存日数の中央値を初めて発表、延命効果が見られました。しかし、遺伝子治療や再生医療に関する国際会議によく参加している中央研究院ゲノム研究センターの沈家寧・研究員は、「これで効果があるとの結論を下すことはできませんし、効果がないとも言えません」と述べました。
その理由の1つは、サンプル数がわずか197名と少なすぎることです。2つ目の理由は一致した比較基準が乏しいことで、年齢、治療方法、ケア方法の違いすべてが統計結果に影響を与えるためです。
このデータをどう思いますか? 「患者にとっては治療の選択肢が増えます、としか言えません」と沈家寧研究員は語りました。現在、再生医療は補助的に使用されることが多く、従来の治療法に代わるものではありません。
有効性がまだ証明されていないことから、衛生福利省は引き続き再生医療研究を奨励したり補助し、定期的に再生医療実施の成果を公表していく方針です。
さらなる研究が必要であるにもかかわらず、産業の進歩という観点から見ると、これは遅きに失した朗報である、と沈家寧研究員は考えています。沈研究員は、効果的な細胞治療は遺伝子組み換え技術と組み合わせなければならないと指摘し、「実際、台湾の細胞治療技術はまだ比較的初級のレベルにある」と述べました。
再生医療二法第3読会のガベル音は、台湾の再生医療産業が急いで追いつく銃声となることができるのでしょうか。5年後の検証を待ちましょう。
資料來源: 『天下雜誌』Web only 2024-06-06
Juiker アプリ - 無料通話
一緒に Juiker しましょう