台湾スマート医療産業の機会と課題
2024-04-30
はじめに
台湾はバイオ医薬、エレクトロニクス、そして情報通信産業で多くの優秀な人材を輩出してきました。世界的なデータベースサイトであるNUMBEOが公表した2024年世界医療ケア指数ランキングによりますと、台湾は韓国、日本、オランダおよびフランスを抑え8年連続で世界一位の座を獲得、完全な医療ケア体系と国民皆保険(全国民健康保険)は世界に誇るものです。また、台湾のIC産業の生産総額は米国に次いで世界第二位です。ポストコロナの時代において、遠隔医療とスマート医療の分野はすでにグローバルなバイオ医薬産業発展の主要な方向の1つになっています。台湾は臨床、エレクトロニクス、情報通信産業において優位性を持っており、この優位性を効果的に利用することができれば、遠隔医療およびスマート医療分野は次の1兆台湾ドル産業に成長する見込みがあります。
一、台湾におけるスマート医療発展の現況
台湾ICT産業の設計製造能力は、医療産業が持つ多分野との統合能力が加わり、台湾がスマート医療を発展させるのにきわめて大きな優位性をもたらしています。2024年に台湾のスマート医療生産額は600億台湾ドル(約2,900億円、1台湾ドル=4.8円で計算)に達すると見られています。現在、台湾が投資しているスマート医療の分野は以下の三種類に大別することができます。
- 広達電脳(Quanta Computer、QOCA遠隔医療プラットフォーム)、華碩電脳(ASUS、AICSスマート医療ソリューション)や仁宝電脳(Compal、仁宝iケアシステム、遠隔医療ソリューションの智復宝:BoostFix)のように、大手エレクトロニクスメーカーはシステムインテグレーションソリューションの構築に投資しています。大手エレクトロニクスメーカーは、スマート医療の基本設備とデータアプリケーションソリューションを提供することにより、台湾スマート医療の堅固な基盤を築いています。
- 多くのスタートアップ企業が臨床ニーズに取り組んできました。例を挙げますと、愛因斯坦人口智慧(Deep01)の脳出血補助診断システム、雲象科技(aetherAI)の骨髄スメア診断システム、宏碁智医(Acer Medical)のVeriSee DR 糖尿病網膜病補助診断システム、長佳智能(EverFortune.ai)の胸腔X線補助診断システム、があります。これらの技術はデジタル技術に医療方法を変える巨大な潜在力があることを顕示しています。
- 大が小を牽引するモデルにより、大手エレクトロニクスメーカーとスタートアップAIメーカーが臨床ニーズと問題を解決するために共同で開発を行っています。たとえば、仁宝電脳と兆迪聯智科技(Wistrend Technology)はアルゴリズムモジュールの開発とAIサポートを通じて心臓血管造影用の「AIサークルアノテーションプラットフォーム」を開発、群環科技(BestCom)と利像科技(Invitec)は「脳放射線治療(AVM:脳動静脈奇形)臨床診断映像予測評価システム」を共同で開発しました。これはAIテクノロジーアルゴリズムを利用し、正常な脳組織、脳髄液、ナイダス(異常な血管)を自動的にグループ分けし、放射線治療前の効果分析と治療後の予測を提供、医師の病巣理解を支援します。
二、スマート病院の将来図を描く
国民皆保険のおかげで台湾のスマート病院は相当な基盤を擁しています。新型コロナウィルス感染症の流行期間中、マスクであれ、簡易検査キットやワクチンの管理であれ、健康保険のデータベースはみな重要な役割を演じました。台湾の国民皆保険制度は市民一人一人に基本的な医療保障を提供するだけでなく、効率的な電子カルテシステムも構築しています。このシステムがありますので、医師や医療機関の間で患者の医療資料を共有することが可能となり、その結果、スムーズな医療協力が実現しました。この種のデータ共有モデルは医療の効率を高めるのみならず、患者の治療成績の向上にも資するものです。診察、予防、治療を含む全国民の健康管理にまで広げることができ、また患者にカスタマイズされたサービスを提供できますので、スマート病院の目標を達成することが可能です。
台湾のスマート病院はまさに急速な発展段階にあり、国立台湾大学付属病院、台中栄民総病院、彰化基督教病院などの病院はすべて関係する施設ならびに組織を擁し、先進的な科学技術と医療サービスを結合させて患者にさらに良いケアと体験を提供しています。以下は台湾におけるスマート病院発展の現況です。
- データの統合と共有
台湾のスマート病院は電子カルテシステムを利用しており、医師や看護師はいつでも患者の病歴、検査報告、そして処方を見ることができ、診療の正確性と効率を高めています。
- 遠隔モニタリングと遠隔診療
スマート病院は遠隔モニタリング技術を使い、医師が心拍数、血圧、血糖など患者のバイタルサインを遠隔モニタリングできるように支援します。これは問題の早期発見、リアルタイムでの医療アドバイスの提供にも役立ちます。
遠隔診療により、患者にビデオ会議を通じて医師の診療を受けることが可能になりますので、とりわけ長期入院患者と在宅のケア対象者は病院に行く必要性が低下します。
- 人工知能とビッグデータ分析
腫瘍や中風がそのよい例ですが、台湾のスマート病院は、人工知能を使用して医学映像を分析、医師がより的確に病気を診断できるよう支援しています。この他、ビッグデータの分析は病気の流行トレンドの予測、医療品質の改善、さらにすぐれた治療方法の提供に役立ちます。
- 患者の参加と経験
スマート病院は、モバイルアプリケーションとオンライン・プラットフォームにより、患者はいつでも予約、医師への問い合わせ、検査報告や処方の閲覧ができますので、患者の参加度と満足度を高めています。
つまり、台湾のスマート病院は絶え間なく新技術の探索と応用を続け、医療サービスを改善し、患者のクオリティ・オブ・ライフを高めています。
三、台湾のスマート医療産業が直面する課題
現在、台湾のスマート医療産業全体には、下記に述べるように3つの克服すべき課題があります。
- 法規面上仍有相當大的限制,如創新應用數位產品上市的醫材法規、改變醫療模式的遠距醫療法,以及資訊安全領域的相關規範與個資及隱私法規面における依然として相当大きな制限:たとえば、革新的なデジタル製品が市場に登場する際の医療用品に関する法規、医療モデルを変革するような遠隔医療法、情報セキュリティ分野の関連規範、個人情報およびプライバシーの保護については改善を必要としています。
- 運営モデルと医療給付のボトルネック:台湾は国民皆保険制度を採用しており、95%以上の医療費は全国民健康保険から支払われています。新しい製品やサービスモデルの給付メカニズムについてはさらに省庁の枠を超えた討論が必要です。
- 世界の病院のデジタルシステムへの架け橋:国際標準はデジタル医療イノベーション技術の研究開発、海外市場進出の必要条件です。台湾は現在のところ、国際医療情報システムを除けばまだ開始段階にあり、将来的には次世代の国際医療情報標準(FHIR)に一致させることでデジタル医療の産業化を促進します。
四、結論
国民皆保険制度が整備されていること、ICTおよびバイオ医薬産業の卓越した実力とイノベーション、これらは台湾がスマート医療を推進するにあたり強大な原動力になっています。台湾のスマート病院は先進的な科学技術と人間的なケアを結合させ、医療サービスの効率を高めるだけではなく、患者の治療経験も向上させています。ポストコロナ時代の新たな機会に直面している台湾は、スマート医療が革新的な発展を続けることができるよう、世界のスマート医療市場で一席を占め、さらに一歩進んで世界の医療産業のリーダーになることを支援できるよう、法規の刷新、オペレーションモデルの調整を行い、国際協力を強化する必要があります。
資料來源: 財団法人金属工業研究発展センター医療器材研究発展サービス処